２．百人一首 歌人
1．
秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ わが衣手は 露にぬれつつ
2．天智天皇(てんじてんのう)
春すぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山
3．持統天皇(じとうてんのう)
あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を ひとりかも寝む
4．柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)
田子の浦に うち出でてみれば 白妙の 富士の高嶺に 雪は降りつつ
5．山部赤人(やまべのあかひと)
奥山に 紅葉ふみわけ 鳴く鹿の 声聞くときぞ 秋はかなしき
6．猿丸大夫(さるまるだゆう)
かささぎの 渡せる橋に おく霜の 白きを見れば 夜ぞ更けにける
7．中納言家持(ちゅうなごんやかもち)
天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも
8．安倍仲麿(あべのなかまろ)
わが庵は 都のたつみ しかぞ住む 世をうぢ山と 人はいふなり
9．喜撰法師(きせんほうし)
花の色は 移りにけりな いたづらに 我が身世にふる ながめせしまに
10．小野小町(おののこまち)
これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂の関
11．蝉丸(せみまる)
わたの原 八十島かけて こぎ出でぬと 人には告げよ あまのつり舟
12．参議篁(さんぎたかむら)
天つ風 雲のかよひ路 吹きとぢよ 乙女の姿 しばしとどめむ
13．僧正遍昭(そうじょうへんじょう)
筑波嶺の みねより落つる みなの川 恋ぞつもりて 淵となりぬる
14．陽成院(ようぜいいん)
陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れそめにし 我ならなくに
15．河原左大臣(かわらのさだいじん)
君がため 春の野にいでて 若菜摘む わが衣手に 雪は降りつつ
16．光孝天皇(こうこうてんのう)
立ち別れ いなばの山の 峰に生ふる まつとし聞かば 今帰り来む
17．中納言行平(ちゅうなごんゆきひら)
ちはやぶる 神代もきかず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは
18．在原業平朝臣(ありわらのなりひらあそん)
住の江の 岸に寄る波 よるさへや 夢のかよひ路 人目よくらむ
19．藤原敏行朝臣(ふじわらのとしゆきあそん)
難波潟 短かき芦の 節の間も 逢はでこの世を 過ぐしてよとや
20．伊勢(いせ)
わびぬれば 今はた同じ 難波なる 身をつくしても 逢はむとぞ思ふ
21．元良親王(もとよししんのう)
今来むと いひしばかりに 長月の 有明の月を 待ち出でつるかな
22．素性法師(そせいほうし)
吹くからに 秋の草木の しをるれば むべ山風を あらしといふらむ
23．文屋康秀(ふんやのやすひで)
月見れば ちぢに物こそ 悲しけれ わが身ひとつの 秋にはあらねど
24．大江千里(おおえのちさと)
このたびは ぬさもとりあへず 手向山 紅葉のにしき 神のまにまに
25．菅家(かんけ)
名にし負はば 逢坂山の さねかづら 人に知られで くるよしもがな
26．三条右大臣(さんじょうのうだいじん)
小倉山 峰の紅葉ば 心あらば 今ひとたびの みゆき待たなむ
27．貞信公(ていしんこう)
みかの原 わきて流るる いづみ川 いつ見きとてか 恋しかるらむ
28．中納言兼輔(ちゅうなごんかねすけ)
山里は 冬ぞさびしさ まさりける 人目も草も かれぬと思へば
29．源宗于朝臣(みなもとのむねゆきあそん)
心あてに 折らばや折らむ 初霜の 置きまどはせる 白菊の花
30．凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)
有明の つれなく見えし 別れより 暁ばかり 憂きものはなし
31．壬生忠岑(みぶのただみね)
朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に 降れる白雪
32．坂上是則(さかのうえのこれのり)
山川に 風のかけたる しがらみは 流れもあへぬ 紅葉なりけり
33．春道列樹(はるみちのつらき)
久方の 光のどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ
34．紀友則(きのとものり)
誰をかも 知る人にせむ 高砂の 松も昔の 友ならなくに
35．藤原興風(ふじわらのおきかぜ)
人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香ににほひける
36．紀貫之(きのつらゆき)
夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 雲のいづこに 月宿るらむ
37．清原深養父(きよはらのふかやぶ)
白露に 風の吹きしく 秋の野は つらぬきとめぬ 玉ぞ散りける
38．文屋朝康(ふんやのあさやす)
忘らるる 身をば思はず 誓ひてし 人の命の 惜しくもあるかな
39．右近(うこん)
浅茅生の 小野の篠原 しのぶれど あまりてなどか 人の恋しき
40．参議等(さんぎひとし)
忍ぶれど 色に出でにけり わが恋は 物や思ふと 人の問ふまで
41．平兼盛(たいらのかねもり)
恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか
42．壬生忠見(みぶのただみ)
契りきな かたみに袖を しぼりつつ 末の松山 波こさじとは
43．清原元輔(きよはらのもとすけ)
逢ひ見ての 後の心に くらぶれば 昔は物を 思はざりけり
44．権中納言敦忠(ごんちゅうなごんあつただ)
逢ふことの 絶えてしなくは なかなかに 人をも身をも 恨みざらまし
45．中納言朝忠(ちゅうなごんあさただ)
哀れとも いふべき人は 思ほえで 身のいたづらに なりぬべきかな
46．謙徳公(けんとくこう)
由良の門を 渡る舟人 かぢを絶え ゆくへも知らぬ 恋の道かな
47．曽禰好忠(そねのよしただ)
八重むぐら しげれる宿の さびしきに 人こそ見えね 秋は来にけり
48．恵慶法師(えぎょうほうし)
風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ くだけて物を 思ふころかな
49．源重之(みなもとのしげゆき)
みかきもり 衛士のたく火の 夜はもえ 昼は消えつつ 物をこそ思へ
50．大中臣能宣朝臣(おおなかとみのよしのぶあそん)
君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな
51．藤原義孝(ふじわらのよしたか)
かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしもしらじな もゆる思ひを
52．藤原実方朝臣(ふじわらのさねかたあそん)
明けぬれば 暮るるものとは 知りながら なほうらめしき 朝ぼらけかな
53．藤原道信朝臣(ふじわらのみちのぶあそん)
嘆きつつ ひとりぬる夜の あくるまは いかに久しき ものとかはしる
54．右大将道綱母(うだいしょうみちつなのはは)
忘れじの ゆくすえまでは かたければ 今日を限りの 命ともがな
55．儀同三司母(ぎどうさんしのはは)
滝の音は たえて久しく なりぬれど 名こそ流れて なほ聞えけれ
56．大納言公任(だいなごんきんとう)
あらざらむ この世のほかの 思ひ出に いまひとたびの あふこともがな
57．和泉式部(いずみしきぶ)
めぐりあひて 見しやそれとも わかぬまに 雲がくれにし 夜半の月かな
58．紫式部(むらさきしきぶ)
有馬山 猪名の笹原 風吹けば いでそよ人を 忘れやはする
59．大弐三位(だいにのさんみ)
やすらはで 寝なましものを さ夜ふけて かたぶくまでの 月を見しかな
60．赤染衛門(あかぞめえもん)
大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみも見ず 天の橋立
61．小式部内侍(こしきぶのないし)
いにしへの 奈良の都の 八重桜 けふ九重に にほひぬるかな
62．伊勢大輔(いせのたいふ)
夜をこめて 鳥のそらねは はかるとも よに逢坂の 関はゆるさじ
63．清少納言(せいしょうなごん)
いまはただ 思ひ絶えなむ とばかりを 人づてならで 言ふよしもがな
64．左京大夫道雅(さきょうのだいぶみちまさ)
朝ぼらけ 宇治の川霧 たえだえに あらはれわたる 瀬々の網代木
65．権中納言定頼(ごんちゅうなごんさだより)
うらみわび ほさぬ袖だに あるものを 恋にくちなむ 名こそをしけれ
66．相模(さがみ)
もろともに あはれと思へ山桜 花よりほかに 知る人もなし
67．前大僧正行尊(さきのだいそうじょうぎょうそん)
春の夜の 夢ばかりなる 手枕に かひなくたたむ 名こそをしけれ
68．周防内侍(すおうのないし)
心にも あらでうき世に ながらへば 恋しかるべき 夜半の月かな
69．三条院(さんじょういん)
あらし吹く 三室の山の もみぢばは 竜田の川の 錦なりけり
70．能因法師(のういんほうし)
さびしさに 宿を立ち出でて ながむれば いづこもおなじ 秋の夕ぐれ
71．良選法師(りょうぜんほうし)
夕されば 門田の稲葉 おとづれて 蘆のまろやに 秋風ぞ吹く
72．大納言経信(だいなごんつねのぶ)
音に聞く 高師の浜の あだ波は かけじや袖の ぬれもこそすれ
73．祐子内親王家紀伊(ゆうしないしんのうけのきい)
高砂の をのへの桜 さきにけり 外山のかすみ たたずもあらなむ
74．前中納言匡房(さきのごんちゅうなごんまさふさ)
憂かりける 人を初瀬の 山おろし はげしかれとは 祈らぬものを
75．源俊頼朝臣(みなもとのとしよりあそん)
契りおきし させもが露を いのちにて あはれ今年の 秋もいぬめり
76．藤原基俊(ふじわらのもとよし)
わたの原 こぎいでてみれば 久方の 雲いにまがふ 沖つ白波
77．法性寺入道前関白太政大臣(ほっしょうじにゅうどうさきのかんぱくだいじょうだいじん)
瀬を早み 岩にせかるる 滝川の われても末に あはむとぞ思ふ
78．崇徳院(すとくいん)
淡路島 かよふ千鳥の なく声に 幾夜ねざめぬ 須磨の関守
79．源兼昌(みなもとのかねまさ)
秋風に たなびく雲の たえ間より もれいづる月の 影のさやけさ
80．左京大夫顕輔(さきょうのだいぶあきすけ)
長からむ 心もしらず 黒髪の 乱れてけさは ものをこそ思へ
81．待賢門院堀河(たいけんもんいんのほりかわ)
ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば ただ有明の 月ぞ残れる
82．後徳大寺左大臣(ごとくだいじのさだいじん)
思ひわび さてもいのちは あるものを 憂きにたへぬは 涙なりけり
83．道因法師(どういんほうし)
世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る 山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる
84．皇太后宮大夫俊成(こうたいごうぐうのだいぶしゅんぜい)
ながらへば またこの頃や しのばれむ 憂しと見し世ぞ 今は恋しき
85．藤原清輔朝臣(ふじわらのきよすけあそん)
夜もすがら 物思ふころは 明けやらで 閨のひまさへ つれなかりけり
86．俊恵法師(しゅんえほうし)
なげけとて 月やは物を 思はする かこち顔なる わが涙かな
87．西行法師(さいぎょうほうし)
村雨の 露もまだひぬ まきの葉に 霧たちのぼる 秋の夕ぐれ
88．寂蓮法師(じゃくれんほうし)
難波江の 蘆のかりねの 一夜ゆえ みをつくしてや 恋ひわたるべき
89．皇嘉門院別当(こうかもんいんのべっとう)
玉の緒よ たえなばたえね ながらへば 忍ぶることの 弱りもぞする
90．式子内親王(しょくしないしんのう)
見せばやな 雄島のあまの 袖だにも ぬれにぞぬれし色はかはらず
91．殷富門院大輔(いんぷもんいんのたいふ)
きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに 衣かたしき ひとりかも寝む
92．後京極摂政前太政大臣(ごきょうごくせっしょうさきのだいじょうだいじん)
わが袖は 潮干にみえぬ 沖の石の 人こそしらね かわくまもなし
93．二条院讃岐(にじょういんのさぬき)
世の中は つねにもがもな 渚こぐ あまの小舟の 綱手かなしも
94．鎌倉右大臣(かまくらのうだいじん)
み吉野の 山の秋風 さ夜ふけて ふるさと寒く 衣うつなり
95．参議雅経(さんぎまさつね)
おほけなく うき世の民に おほふかな わがたつ杣に 墨染の袖
96．前大僧正慈円(さきのだいそうじょうじえん)
花さそふ 嵐の庭の 雪ならで ふりゆくものは わが身なりけり
97．入道前太政大臣(にゅうどうさきのだいじょうだいじん)
こぬ人を まつほの浦の 夕なぎに 焼くやもしほの 身もこがれつつ
98．権中納言定家(ごんちゅうなごんていか)
風そよぐ ならの小川の夕ぐれは みそぎぞ夏の しるしなりける
99．従二位家隆(じゅにいいえたか)
人もをし 人もうらめし あぢきなく 世を思ふゆえに 物思ふ身は
100．後鳥羽院(ごとばいん)
百敷や 古き軒端のしのぶにも なほ余りある 昔なりけり
順徳院(じゅんとくいん)
